2012/01/24

「なかったこと」は共同通信の作文ではなかった

さきのエントリでは、こう書いた。

結局のところ、『「なかったこと」として封印され』いうのは共同記者の「作文」であり、事実ではないのである。
http://yunishio.hateblo.jp/entry/2012/01/23/122720

その後、産経新聞が、共同通信発と思われる同じ主旨の記事を配信していることを知った。以下に引用する。

原発最悪シナリオ 菅政権「なかったこと」と封印していた
2012.1.22 14:44 [放射能漏れ]


 東京電力福島第1原発事故で作業員全員が退避せざるを得なくなった場合、放射性物質の断続的な大量放出が約1年続くとする「最悪シナリオ」を記した文書が昨年3月下旬、当時の菅直人首相ら一握りの政権幹部に首相執務室で示された後、「なかったこと」として封印され、昨年末まで公文書として扱われていなかったことが21日、分かった。複数の政府関係者が明らかにした。

 民間の立場で事故を調べている福島原発事故独立検証委員会(委員長・北沢宏一前科学技術振興機構理事長)も、菅氏や当時の首相補佐官だった細野豪志原発事故担当相らの聞き取りを進め経緯を究明。危機時の情報管理として問題があり、情報操作の事実がなかったか追及する方針だ。

 文書は菅氏の要請で内閣府の原子力委員会の近藤駿介委員長が作成した昨年3月25日付の「福島第1原子力発電所の不測事態シナリオの素描」。1号機の原子炉格納容器が壊れ、放射線量が上昇して作業員全員が撤退したと想定。注水による冷却ができなくなった2号機、3号機の原子炉や1~4号機の使用済み燃料プールから放射性物質が放出され、強制移転区域は半径170キロ以上、希望者の移転を認める区域が東京都を含む半径250キロに及ぶ可能性があるとしている。

 政府高官の一人は「ものすごい内容だったので、文書はなかったことにした」と言明。別の政府関係者は「存在自体を秘匿する選択肢が論じられた」と語った。

 最悪シナリオの存在は昨年9月に菅氏が認めたほか、12月に一部内容が報じられ、初めて内閣府の公文書として扱うことにした。情報公開請求にも応じることに決めたという。

 細野氏は今月6日の会見で「(シナリオ通りになっても)十分に避難する時間があるということだったので、公表することで必要のない心配を及ぼす可能性があり、公表を控えた」と説明した。政府の事故調査・検証委員会が昨年12月に公表した中間報告は、この文書に一切触れていない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120122/plc12012214470003-n1.htm

最初の2段落は、47NEWSなどで配信されたものとまったく同じものだが、第3段落以降、大幅に加筆されている。

問題箇所を抽出してみよう。

 政府高官の一人は「ものすごい内容だったので、文書はなかったことにした」と言明。別の政府関係者は「存在自体を秘匿する選択肢が論じられた」と語った。

この報道によれば、「なかったことにした」は共同通信の手による作文ではなく、「政府高官」の証言に基づいたものと分かる。この箇所が、もともと共同記事にあったものか、あるいは産経新聞が独自に追加したものかは分からない。「なかったことにした」という文言が双方の記事に載っているのだから、最初から共同記事に書かれていたものと推量できるだろう。

政府高官というのが何者を指しているかは分からないが、官僚の一員であることは間違いない(おそらく内閣官房の事務方でしょう)。共同記者はこの高官から聞いた言葉をそのまま記事に書いたわけだ(いや、その場合は「…と、政府高官が明らかにした」と通常なら書くべき状況だと思うよ)。

だから、オレが「共同記者の「作文」であり、事実ではない」と書いたことは、共同記者にとってはまったくの濡れ衣だったわけだ。

ところで、そうすると当初に立ちかえり、菅政権が本当に「最悪シナリオ」文書を隠蔽して「なかったことにした」のか、それが事実かどうかが問題になってくるだろう。

そこで第1段落を読みかえすと、共同記事はこのように言っている。

(A)「最悪シナリオ」を記した文書が昨年3月下旬、当時の菅直人首相ら一握りの政権幹部に首相執務室で示された後、(B)「なかったこと」として封印され、(C)昨年末まで公文書として扱われていなかった

このうち(A)(C)については事実ベースで客観的に確認を取ることができる記述であり、ここでは信憑性を疑わないが、(B)だけがどうにも浮いているように思えるのは、この記述が前述の「政府高官」の証言にのみ拠っているからだ。

さきのエントリでは、当該文書が「なかったこと」にされ「封印」された事実を共同記者は目撃したのかと問うたが、同じ問いかけをこの「政府高官」に呈さなければならない。かれが目撃して「封印」に喩えた菅政権の行為とは具体的になにを指しているのか。また、同様に「別の政府関係者」の証言がどのような根拠に基づいたものなのか、これもはっきりしない。具体的にどのような事実を目撃したのか。

結論は同じところに行きつくだろう。

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